Agrabah Ventures Inc.とNaga College Foundation, Inc.の共同チームが、カマリネス・スール州カラモアンおよびナガ市のスタッフとともに能力向上と交流のセッションを開催し、地域レベルでの気候変動対策に向けた協力体制と知識の共有を強化した場面
1. なぜこの事業に取り組もうとしているのか
世界中の国々が「2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)」を目指していますが、最も大きな課題は「測定できないものは管理できない」という点です。
フィリピンでは、大企業は証券取引委員会(SEC)のガイドラインに基づき、毎年、サステナビリティ報告書の提出が義務付けられています。しかし、国内の企業の99.6%は中小・零細企業(MSME)で、2023年時点で1,246,373社のうち1,241,733 (99.63%)社がMSMEです(フィリピン貿易産業省調べ)。
これらMSMEによる温室効果ガス排出量は、実際にはほとんど把握されていません。Agrabah Ventures Inc.(Agrabah)の推計によると、MSME全体で年間約7,000万トンのCO₂が排出されていると考えられていますが、公式なデータはありません。これはフィリピン全体の排出量(2020年は2億トン超)のかなりの割合を占めます。
この「見えない排出量」はフィリピンだけでなく、ASEAN諸国でも共通の課題です。多くの国でMSMEが経済の中心ですが、彼らのカーボンフットプリントはほとんど記録されていません。
こうした課題を受け、Agrabah(ASEAN Business Awards 2023 Net Zero Awardを受賞)は、現地の事情に合ったカーボン計測・削減・オフセットの仕組み「ネットゼロ政策フレームワーク」を開発しました。これは企業だけでなく農業コミュニティにも使える仕組みです。
また、Naga College Foundation, Inc.(NCF)の研究・研修・開発センターは、科学的な調査と現地データの収集・検証を担当し、地域の持続可能な気候対策を後押しします。
2. 共創事業内容
QUESTでは、地域に根ざしたカーボン認証・クレジット制度の実証を目指しています。農家や中小企業が自分たちの温室効果ガス削減活動を「見える化」し、認証・収益化できる仕組みをつくることが目的です。
Agrabahの自然を活かした気候対策の専門性と、NCFの研究力を活かし、科学的かつ地域の実情に合わせたカーボン測定・報告・検証(MRV)モデルを設計しています。これにより、地方自治体や地元企業が参加しやすい制度づくりを進めています。
この取り組みは、政策主導・科学的根拠・包摂性を重視し、地域レベルでのカーボン会計や取引を身近なものとし、気候変動に強い地域づくりを目指しています。
JICA QUESTの一環として、農場のカーボンクレジット認証に向けた審査を進めている様子
3. 誰と実施しようとしているのか(共創パートナーの紹介)
このプロジェクトは、共創パートナーであるNaga College Foundation, Inc.に加えて、フィリピンの多様な関係者が協力して進めています。主なパートナーは以下の通りです。
- サンホセ市(パルティド)の地方自治体
- ナガ市の地方自治体
- カマリネス・スール州カラモアンの海藻養殖コミュニティ
- メトロナガ商工会議所(MNCCI)
これらのパートナーは、政策・学術・民間企業・地域コミュニティが連携する「包摂的なネットゼロ移行」の基盤となっています。
カマリネス・スール州サンホセ町(パルティド地区)のJerold Peña市長に対し、Agrabah Carbon+プロジェクトの初期説明を行っている場面。左から、Ms. Jayzel Asido, Mr. Jun Ocol, Mayor Jerold Peña, Ms. Jojo Gumino-Ocol, Dr. Regina Valencia, and Ms. Jennifer de Jesus.
4. 一般の方へのご協力のお願い
Agrabah–NCF共同プロジェクトは、単なる実証実験ではなく、「誰もが参加できる測定可能な気候アクション」のムーブメントです。政策設計、地域自治、研究、そして生業のイノベーションを結びつけることで、すべての中小企業や農業コミュニティが低炭素経済への参加を実現できるよう目指しています。
私たちは、研究機関、地方自治体、企業、開発団体の皆さまがこの取り組みに参画し、共にスケールアップしていくことを期待しています。地域の強さや創意工夫、持続可能性への思いを反映した「カーボンエコシステム」を、フィリピンからASEAN諸国のモデルとして築きましょう。
データを行動へ、政策を成果へ、地域を気候チャンピオンへ。皆さまのご参加を心よりお待ちしています。























