東南アジアでの米栽培の様子
1. なぜこの事業に取り組もうとしているのか
近年、地球規模での気候変動が高温・干ばつ・豪雨の頻発として顕在化し、農業現場では収量や品質の不安定化、さらには種子・苗の供給自体の脆弱化が深刻な課題となっています。2050年には世界人口が100億人に迫るといわれるなか、環境変動と共存しながら食料増産を実現することは人類にとって避けて通れない課題です。
しかし、従来の育種では品種開発に10年以上を要し、環境変化のスピードに追いつくのが難しい現状があります。遺伝子組換え[1]には社会的受容の課題があり、ゲノム編集[2]も改変できる遺伝子が限られるため、効果が限定されやすいという制約があります。
私たちは、これらの課題を打開する手段として、種子のエピゲノムを制御する技術に着目しました。エピゲノムは遺伝子のスイッチのような役割を果たしており、ゲノムそのものを改変することなく、種子が作られる過程での温度や水分などの外的刺激、いわば“胎教”のようなメカニズムでエピゲノムを最適化することで、耐暑・耐乾など複合的な環境ストレス耐性を短期間で高めることに成功しています。品種のアイデンティティを維持したまま環境適応範囲を拡張できる点に、社会実装価値の高さを見出しています。
私たちは、食料生産の最上流である“種子”のアップグレードを通じて食料安全保障を支え、環境変動時代における食料増産の実現を目指します。
2. 事業内容
本事業では、九州大学が開発したエピゲノムコントロール技術について、技術面およびビジネス面での導入可能性を検証します。
技術面では、実証期間中に本技術を導入しない場合(無処理)の日本米(既にタイにて流通している育成者権の期限を迎えた品種を使用している)を栽培し、外観、収量、栽培日数などの項目の特性を測定します。これらの検証を通じて、タイでの日本米栽培における課題が本技術で解決できるかどうか、また現地での一般的な留意点(病害など)も把握します。なお、2026年度(事業期間外)には、エピゲノムを最適化した日本米と無処理の日本米を栽培し、技術の優位性を確認する予定です。
ビジネス面では、現地の日本米栽培コストや流通価格の調査による採算性の検証、現地および東南アジア諸国での日本米需要の調査による市場規模の把握、種子流通に関する規制の調査などを行い、社会実装時のビジネスモデルを具体化します。具体的には、経済性および法令の2つの観点に関する調査検証が中心となります。経済性の検証においては、タイにおける日本米の流通実態、日本米の生産コスト、販売単価の調査を実施します。また、法令に関しては今後ビジネスを行っていく上で重要な要素であり、本事業では日本からタイへの日本米輸出に関する法令を中心に確認を行います。
米栽培の様子
3. 共創パートナーの紹介
本事業は、技術面での検証を九州大学(作物学研究室)が、ビジネス面での検証をGuan株式会社が中心となって行います。九州大学作物学研究室は100年以上にわたり植物の環境ストレス応答等に関する研究を行ってきました。近年ではエピゲノムの研究開発にも力をいれており、特に種子に関するエピゲノムデータベース及びエピゲノムコントロール技術に関しては世界屈指の研究レベルであり、今回検証しようとする技術を有する唯一無二の研究機関です。
Guan株式会社には、食品・農業分野を専門とするコンサルタントが在籍し、スタートアップの事業戦略支援や大手企業の新規事業開発支援などの実績があります。両者の強みを活かし、社会実装に向けた準備を進めます。
4. 一般の方へのご協力のお願い
- 環境ストレス耐性を持つ日本米を実際にご利用いただける農業法人、商社、食品メーカー等を募集しています。
- 事業拡大に向けた共同研究資金や、社会実装フェーズへの投資パートナーを募集しています。
- エピゲノムによる種子改変技術を活用し、種子のアップグレードを希望する育種家の皆様も募集しています。
[1] 遺伝子組換え技術とは、ある生物が持つ遺伝子(DNA)の一部を、他の生物の細胞に導入して、その遺伝子を発現(遺伝子の情報をもとにしてタンパク質が合成されること)させる技術のことです。(農林水産省ウェブサイトより抜粋)生物多様性と遺伝子組換え(基礎情報):農林水産省
[2] ゲノム編集技術の基本は、生物が持つゲノムの中の特定の場所を切断することです。生物には切れたDNAを元どおりに直す仕組みがありますが、稀に修復ミスで突然変異が起こります。ゲノム編集技術では、この現象を利用して目的の場所に突然変異を起こします。ゲノムの狙った場所に突然変異を起こすことができるのが、自然に起きる突然変異やこれまでの人為的な突然変異とは異なる点です。(農林水産技術会議ウェブサイトより抜粋)ゲノム編集~新しい育種技術~:農林水産技術会議

